新時代の経営戦略「ダイナミック・ケイパビリティ」とは何か?

「ものづくり白書2020」から読み解く

道端で話す二人の男性

「ダイナミック・ケイパビリティ」という言葉をご存知でしょうか。

この言葉は、2020年5月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で発表した「ものづくり白書2020」の中で取り上げられ、製造業界を中心に注目を集めている概念です。同白書では、ダイナミック・ケイパビリティを「日本の製造業の課題を考えるにあたって注目すべき戦略経営論」と位置付け、その重要性を強く訴えています(2020年版ものづくり白書 第1章 第2節「不確実性の高まる世界の現状と競争力強化」より)。そこで本記事では、ダイナミック・ケイパビリティの概要について説明し、さらに今、注目を集めている理由や、どうすれば実現できるのかといった具体的な実践方法まで解説します。

ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)とは?具体的な事例は?

ダイナミック・ケイパビリティとは、カリフォルニア大学バークレー校のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱された戦略経営論で、「ものづくり白書2020」においては「環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力」と説明されています。つまり、ダイナミック・ケイパビリティとは「環境に適応して、組織を柔軟に変化させる力」のことです。さらに、ティース氏は、ダイナミック・ケイパビリティは、以下の3つの能力に分類できるとしています。

  • 感知(センシング):脅威や危機を感知する能力
  • 捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
  • 変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し変容させる能力

つまり、ダイナミック・ケイパビリティを備えている企業とは、「危機を敏感に感知し、適切なタイミングで組織を再編成して、新たな組織への変容を実現できる企業」のことだと言えます。

その具体例として、「ものづくり白書2020」は、大手化学メーカーのA社を挙げています。A社は、もともと写真フィルムの製造販売を主力事業としていましたが、2000年以降のデジタルカメラの普及により写真フィルム市場が激減すると、自社のコア技術を化粧品製造に応用するなどして、業態を転換。現在は化粧品、医療品、再生医療などヘルスケア領域を主力事業とする企業に生まれ変わっています。

こうした危機に対して柔軟に対応する力を、「ものづくり白書2020」はダイナミック・ケイパビリティ、つまり現代の製造業における重要な経営戦略として紹介しています。

ダイナミック・ケイパビリティが企業に求められる理由

では、なぜ今ダイナミック・ケイパビリティが求められているのでしょうか。

その理由として、「ものづくり白書2020」は、「世界における不確実性の高まり」を挙げています。近年、英国のEU離脱や米中貿易摩擦に代表される地政学的リスクや、頻発する自然災害、急速な技術革新などの影響を受けて、私たちのビジネス環境は不安定な状況が続いていました。さらに、2020年には、新型コロナウイルスの感染拡大が発生し、ますます世界は不確実性に満ち、まさに「何が起こるかわからない時代」に突入しつつあります。

そうした時代において、企業は先行きが読めないことを前提として、経営戦略を練らなければなりません。「何が起こるかわからない時代」には、「何が起こっても対応できる戦略」が求められるのです。

そこで、ダイナミック・ケイパビリティが重要になります。危機に柔軟に対応し、自己変革により窮地を乗り切るダイナミック・ケイパビリティは、「VUCA」とも称される、現代のビジネス環境に非常に適合した経営戦略なのです。

ダイナミック・ケイパビリティを実現するためには?

それでは、ダイナミック・ケイパビリティを備えるために、企業は具体的にどのような施策に取り組むべきなのでしょうか。「ものづくり白書2020」は、ダイナミック・ケイパビリティを高めるためには「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が必要不可欠だと指摘しています。

なぜなら、DXは、先に述べたダイナミック・ケイパビリティにおける3つの能力「感知」「捕捉」「変容」をそれぞれ増幅させるからです。

例えば、危機や脅威を察知する能力である「感知」は、デジタル技術によるデータの収集・分析によって磨かれます。また、既存の資産や知識を再編成する能力の「捕捉」は、経営状況をリアルタイムで把握することにより可能になるため、自社内の情報をできる限りデジタルデータに転換しておく必要があります。さらに、企業を自己変革する能力である「変容」については、経営をデジタル上に転換するDXの取り組みこそが「変容」の1つの形態だと言えます。DXにはビジネスにおける合意や契約、ワークフローなど、企業の多岐にわたるプロセス変革を後押しする強い原動力があります。

不確実性が渦巻き、経営にとってあるべき指針が見失われつつある時代において、DXはダイナミック・ケイパビリティを実現し、この先の未来を生き抜くために欠かすことができない施策なのです。

身の回りのDXを進めながら、ダイナミック・ケイパビリティに取り組む

「ものづくり白書2020」で語られているダイナミック・ケイパビリティは、何が起こるかわからない現代、業種・業態を問わず多くの企業に必要となる概念です。

新型コロナウイルスの感染拡大は全世界を混乱に陥れ、社会のさまざまな場所に傷跡を残しています。しかし、新型コロナウイルスを超える脅威が、この先に起こらないという保証はありません。不確実性の高まる世界においては、常に想定外の事態が起こり得ることを忘れてはいけないのです。

将来の脅威に備えるために、ダイナミック・ケイパビリティを推進し、DXを進めていくことがより一層重要になってきています。例えば、BIツールを導入すれば、従来、活用されていなかった経営にまつわる情報を可視化・分析できるため、ダイナミック・ケイパビリティにおける「感知」の能力を向上させることができます。他にも、契約書や発注書、稟議書といった書類をペーパーレス化すれば、社内の情報がデジタルデータ化されるため、「捕捉」の能力を高められます。さらに、契約や合意、承認など、オフライン環境で行われていた業務を電子署名に置き換えることで、自ら組織を変革する「変容」を実践することもできます。

こうしたダイナミック・ケイパビリティの理論を参考にしつつ、自社の業務を見直し、身の回りのDXを少しずつ進めてみることをお勧めします。

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筆者
安達 智洋
シニア・コンテンツ・マーケティング・マネージャー
公開