【2023年6月施行】特商法の改正による契約書面等の電子化のポイント

訪問販売の契約書の電子化について説明する営業担当者

消費者トラブルが起こりやすい商取引において、事業者に対する不正行為の取り締まりや消費者保護を目的とする特定商取引法(特商法)。改正特定商取引法における交付書面の電子化に関する規定により、2023年6月1日以降、事業者が消費者に対して交付すべき契約書面等を、メールなどの電磁的方法により提供することが可能となります。本記事では、改正特定商取引法に基づく契約書面等の電子化について、要件や注意点などをわかりやすく解説します。

特定商取引法(特商法)とは

「特定商取引法(特商法)」とは、消費者トラブルが発生しやすい商取引を規制する法律です。事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的としています。

特定商取引法による規制の対象となっている商取引は、以下の7種類です。

  • 訪問販売
  • 通信販売
  • 電話勧誘販売
  • 連鎖販売取引
  • 特定継続的役務提供
  • 業務提供誘引販売取引
  • 訪問購入

対象取引の詳細および規制の概要については、『特定商取引法の基礎知識。対象となる取引やガイドラインは?』をご覧ください。

改正特定商取引法により、契約書面等の電子化が可能に

特定商取引法の対象取引を行う事業者は、消費者に対して契約に関する事項を記載した書面(=契約書面等)を交付する義務を負います。

従来は、契約書面等の交付は紙の書面に限定されていました(「通信販売」を除く)。しかし、2023年6月1日に施行される改正特定商取引法により、上記の各取引にかかる契約書面等の電子化が、一定の条件下において認められます(改正特定商取引法4条2項、13条2項、18条2項、20条2項、37条3項、42条4項、55条3項、58条の7第2項)。同改正は、利便性や感染症対策などの観点から、業界内で高まっていた要望に応えるものです。

特定商取引法に基づく契約書面等を電子化するためには、データファイルをPDF等でメール送信する方法や、電子署名サービスを利用する方法などが考えられます。

2021年に公布された「改正特定商取引法」全体のポイントについては、以下の記事をご参照ください。

おすすめ記事:改正特定商取引法のポイントをわかりやすく解説

契約書面等の電子化には消費者の承諾が必要。その手続きも要チェック!

特定商取引法に基づく契約書面等を電子化するためには、消費者である申込者の承諾を得る必要があります。メールなどの電磁的方法に不慣れな申込者にも、対象取引に関する事項を確実に伝達するため、書面による交付も選択可能とされています。

さらに、事業者が申込者から電子化の承諾を得る際には、政令・主務省令で定められる手続きを踏まなければなりません(改正特定商取引法施行令4条、改正特定商取引法施行規則10条など)。

例えば、訪問販売の場合、電子化の承諾を取得する際には以下の手続きが必要です。

①申込者に対して、以下の事項を説明すること

  • 電磁的方法による交付を承諾しなければ、書面が交付されること
  • 電磁的方法により提供される事項は、申込者にとって重要なものであること
  • データが受信端末等に記録された時点で契約書面等が到達し、その日から起算して8日が経過すると、クーリングオフができなくなること
  • 電磁的方法による交付を受けられるのは、一定の要件を満たす電子計算機を日常的に使用し、自ら操作できる者に限られること

※上記の各説明については、申込者が理解できるように平易な表現を用いなければなりません(改正特定商取引法施行規則10条2項)。

②申込者に対して、以下の事項を確認すること

  • 申込者が、一定の要件を満たす電子計算機を日常的に使用し、自ら操作できること
  • 申込者が閲覧に用いる電子計算機につき、サイバーセキュリティが確保されていること
  • 申込者が、契約事項の申込者が指定する者(家族など)に対するメール送信を希望する場合は、その者のメールアドレスを確認すること

※上記の各確認を行う際には、申込者が日常的に使用する電子計算機を自ら操作し、事業者のWebページ等を利用する方法により行わなければなりません(同条4項)。

特定商取引法の契約書面等を電子化する際の注意点

特定商取引法に基づく契約書面等を電子化する際には、以下の2点に注意する必要があります。

  1. 取引類型ごとの記載事項を網羅する
  2. 申込者の承諾取得手続きを厳守する

1. 取引類型ごとの記載事項を網羅する

特定商取引法では、対象取引の類型に応じて、契約書面等に記載すべき事項が定められています。

記載事項が1つでも漏れていれば、正規の契約書面等と認められない可能性があります。電磁的方法によって契約書面等を交付する際にも、書面交付の場合と同様に、法律上の記載事項が漏れていないかどうかを十分確認しましょう。

2. 申込者の承諾取得手続きを厳守する

契約書面等を電磁的方法によって交付する際には、特定商取引法および関連法令の規定に従い、申込者の承諾を得なければなりません。

申込者の承諾が得られない場合や、申込者が電子交付に適さない場合(PCやスマートフォンに習熟していないなど)には、契約書面等を電子交付することは違法となります。また、事業者に義務付けられる説明・確認のプロセスを省略してしまうことも、同様に違法となります。

契約書面等を電子交付する際には、特定商取引法・関連法令に定められる承諾取得手続きを厳守しましょう。

ルールに違反した場合のリスク

契約書面等を電子化する際、事業者が特定商取引法上の要件・手続き等に違反した場合には、以下のリスクを負うことになります。

  1. 契約が取り消される可能性がある
  2. クーリングオフ期間が進行しない
  3. 消費者庁の行政処分を受ける

1. 契約が取り消される可能性がある

契約書面等に記載すべき事項に漏れがあった場合、事業者は申込者に対して、契約上の重要事項を故意に告げなかったと判断されかねません。この場合、申込者の側から契約を取り消されるおそれがあるので注意が必要です(特定商取引法9条の3第1項第2号など)。

2. クーリングオフ期間が進行しない

特定商取引法では、契約の類型ごとに8日間または20日間のクーリングオフ期間が設定されています。クーリングオフ期間は、契約書面等が申込者に到達した日を初日として進行します。契約書面等がメールなどの電磁的方法によって交付された場合、到達日(=クーリングオフ期間の初日)は、申込者の使用する電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた日です(特定商取引法4条3項など)。

しかし、契約書面等において法定の記載事項が漏れている場合、正規の契約書面等の交付として認められないため、クーリングオフ期間が進行しません。この場合はどんなに期間が経過しても、申込者の一存により、事業者の費用負担で契約が解除されてしまうので要注意です。

3. 消費者庁の行政処分を受ける

消費者庁は、対象取引に係る契約書面等を適切に交付しない事業者に対して、消費者の利益保護等の観点から必要な措置を指示することができます(特定商取引法7条など)。消費者庁による指示は公表されるため、事業者としての評判に悪影響が生じかねません。

さらに、悪質なケースでは2年以内の業務停止処分や、役員等に対する業務禁止処分が行われるおそれがあります。これらの行政処分を受けた場合、事業の継続が困難となる可能性が高いので注意が必要です。

契約書面等の電子化には「電子署名サービス」が便利

電子署名サービスをうまく活用すれば、契約書面等の電子交付につき、事業者に要請される説明や確認手続きなどを確実に行い、その記録をデジタルで保存することができます。ドキュサインの電子署名(製品名:DocuSign eSignature)は、締結した文書とともに「誰が」「いつ」「何に」合意したかといった情報をクラウド上に安全に保管し、必要な時にいつでも確認が可能です。エステサロンや語学教室、結婚相手紹介サービス、訪問販売など、特定商取引法の対象取引を取り扱う事業者は、運用業務の効率化を目指し、この機会に契約書面等の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。

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阿部 由羅(あべ ゆら)プロフィール写真
筆者
阿部 由羅
ゆら総合法律事務所・代表弁護士
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