「地球温暖化」から「地球沸騰化」の時代へー今とるべき対策とは?

今夏の世界的な猛暑を受けて使われ始めた「地球沸騰化」という言葉。国連のアントニオ・グテーレス事務総長が記者会見の中で使った言葉ですが、どのような意味があるのでしょうか?また、その背景にはどんな事情があるのでしょうか?本記事では、日本、そして世界で何が起きているのかを解説するとともに、「地球温暖化」と「地球沸騰化」の違いや、政府、企業、個人が取るべき対策について考えていきます。

そもそも「地球沸騰化」とは?

「地球沸騰化」という言葉の背景には、2023年7月に「地球温暖化」という言葉では表現しきれないほどの猛暑が世界各地で発生したことがあります。

世界気象機関(WMO)と欧州委員会の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は、2023年7月27日に「2023年7月が人類史上最も暑い月となる」と発表し、それを裏付ける科学的な公式データを発表しました(※1)。これを受け、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は記者会見で「地球沸騰化の時代が到来した(The era of global boiling has arrived)」と語りました。「地球沸騰化」という言葉は瞬く間に世界中に広まり、共感や驚きの声が上がりました。

Land and Ocean Temperature Percentiles July 2023
図1:Land & Ocean Temperature Percentiles July 2023(引用:NOAA)

実際、世界では何が起こっているのでしょうか? 米国海洋大気圏局(NOAA)が公開した、2023年7月の平均気温を1991年~2020年の平均気温と比べた世界地図(図1)を見ると、大部分で気温が上がっていることがわかります。一番右の濃い赤色が「これまでで最高の気温を記録した場所」、その横のオレンジに近い赤色が「これまでの平均気温よりはるかに気温が高かった場所」ですが、陸・海ともにかなり広い範囲を占めています。

ヨーロッパ、アフリカ、アジア各地で最高気温を記録した場所では、猛暑の影響で熱中症になる人が増え、干ばつ、山火事、洪水などの自然災害も増加しました。ギリシャでは、熱中症で倒れる人が相次いだため、閉鎖された観光地もあります。7月末時点で米国のアリゾナ州フェニックスの気温は31日連続で43.3度を超え、ホームレスの人々にとっては飲み水の有無や日陰で休めるかどうかが生死のカギを意味するような過酷な状況になりました(※2)。また、スペイン、カナダ、米国では猛暑や乾燥の影響で、山火事が増え続けています。バイデン大統領が「過去100年以上で最も多くの死者を出した山火事」と語った8月初旬のハワイの山火事も、一因として猛暑と干ばつが指摘されています。気温上昇により水蒸気が増え、その水蒸気によって世界各地で豪雨も発生しています。

日本はどうでしょうか?気象庁によると、1898年の統計開始以降、今年7月は1978年(の平均気温の基準値からの偏差)を上回り最も暑くなりました(※3)。豪雨も増え続けており、気象庁気象研究所は集中豪雨の発生頻度が2020年までの45年間で3.8倍になったと発表(※4)しましたが、その一因は地球温暖化だと言われています。

こうした状況を受け、7月27日の記者会見でグテーレス事務総長は「これこそが気候変動で、恐ろしいことだ。そしてこれは始まりに過ぎない」と発言し、「温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と述べたのです。そして、各国政府や企業のリーダーに早急な行動を促すとともに、先進国に対しては2040年までのネットゼロ(温室効果ガス排出量の実質ゼロ化)にコミットするよう求めました(※5)。

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温暖化とどう違う? 沸騰化が進むとどうなる? 

では、「温暖化」と「沸騰化」はどう違うのでしょうか? 一言で答えると、地球の温まり方の深刻さが違います。ただ、この言葉そのものについては、研究機関等が何度上昇すると「沸騰化」であると具体的に決めているわけではなく、明確な定義もありません。グテーレス事務総長は、最高気温を記録した事実と猛暑による災害の規模を受けて、危機感を伝えるために「沸騰化」という言葉を使ったと考えられます。実際、この表現に関して東京大学/国立環境研究所の江守正多氏は「文字通り科学的にとらえると100度は超えないので水は沸騰しないわけで、ちょっと強調して話題になる言葉を使ってみたということでしょう」とコメントしています(※6)。

では「沸騰化」と表現されるような温まり方が続くと、どんなことが起こるのでしょうか?国際機関や科学者らは、自然の生態系、人間の健康、そして経済に大きな影響が出ると警鐘を鳴らしています。WMOが2023年4月に発表した報告書『2022年 地球気候の現状に関するWMO報告書(The WMO State of the Global Climate report 2022)』には、下記のように書かれています(※7)。

  • 気候変動は、自然界で繰り返される事象(樹木の開花期や鳥が渡る時期など)にも影響を与えており、すでにいくつかの渡り鳥の種が減少した
  • 欧州ではスペイン、ドイツ、英国、フランス、ポルトガルを合わせた猛暑関連の超過死者数(過去の傾向から予想された死亡者数と実際の死亡者数の差)が1万5,000人以上になった
  • 有害な気候および気象関連事象が一年を通じて新たな強制移住をもたらしている。例えば、2022年に発生したパキスタンの洪水ではおよそ3,300万人が被災し、同年10月までに、洪水によって約800万人が国内避難民となった
  • 干ばつ、洪水、熱波があらゆる大陸のコミュニティーに影響を与え、何十億ドルもの損失をもたらした

また、暑さによって労働生産性の低下がもたらされる可能性もあります。実際、国際労働機関(ILO)は、熱ストレスで2030年に約350兆円の経済損失が出るという予測を出しています(※8)。

このように気温上昇は多方面に大きな影響を及ぼします。しかし、その対策はなかなか理想のシナリオ通りには進んでいません。大きな原因は、地球温暖化/沸騰化を引き起こしているCO2やメタンなどの温室効果ガスの排出削減がなかなか進まないことです。2021年10月には、国連は現状の対策にとどまる状況では地球の気温が今世紀中に平均2.7度上昇すると警告。産業革命前からの気温上昇を2度未満、理想的には1.5度に抑えるよう世界中で協調していくことを訴えました(※9)。

地球沸騰化の時代に必要な対策は?

地球温暖化の影響で干上がった土地

地球沸騰化の時代に求められるのは、早急で効果的な対策です。

まず、対策が求められているのは世界各国の政府です。グテーレス事務総長は、「地球沸騰化」と発言した記者会見の後半で、特に世界の温室効果ガス排出量の80%に責任を負うG20諸国が、気候変動対策と気候正義のために対策を強化する必要性があると述べています。G20諸国が中心となって温室効果ガスの排出量を抑え、気候変動会議などの国際会議で積極的に気温上昇を緩和するための目標を決め、責任を持って対処していくことが重要です。また、気候変動による被害が大きい途上国は資金不足や、経済発展に伴う温室効果ガスの排出量の増加といった事情で、取り組みが遅々として進まない国が少なくありません。これらの国々を、資金や技術面でサポートしていくことも求められます。そして、こうした動きを進めるために、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)で各国が協調し、有効な対策を出すことが望まれます。

事業を通じて多くの温室効果ガスを排出している企業側の対策も不可欠です。具体策としては、温室効果ガス排出量を削減するための施策はもちろん、リサイクルされたプラスチックをパッケージに利用する、修理しやすく長持ちする製品を作る、グリーン電力を使うといった生産現場の工夫が挙げられます。再生紙の使用、省エネ、ペーパーレス化の推進など、オフィス部門での対策も欠かせません。

加えて、グテーレス事務総長は地球温暖化/沸騰化の影響で異常気象がすでに「ニューノーマル」になりつつある今、熱中症や洪水、嵐、干ばつ、山火事などの被害に対して、様々な方法を試しながら適応していく必要があると述べています。

「地球は沸騰している」という言葉の意図を今一度考え、できる工夫を政府、企業、個人が実践していくー。一人ひとりが異常気象を実感している昨今、全方位的に早急な対策を行うことが求められています。

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