事業承継とは?3つのパターンと中小企業が直面する課題

経営者と意見を交わす若手社員

少子化が加速する中、日本国内の中小企業において問題となっている「事業承継」。近年、親族への承継だけでなく、外部の適切な人材や企業にビジネスを譲渡する動きも活性化しています。本記事では「事業承継」とは何か、3つのパターンに分類してそれぞれのメリット・デメリットを紹介し、実際に事業承継を行う際の流れについて解説します。

事業承継とは?注目されるようになった背景

事業承継とは、事業の経営権を後継者に引き継ぐことを指す言葉です。事業承継は一朝一夕でできるものではなく、後継者の育成に5~10年以上かかるといわれています。

日本社会では子供をはじめとする親族への承継が一般的ですが、昨今、少子化の影響もあり後継者不足と廃業問題が浮かび上がっています。

2022年度の後継者不在に起因する倒産件数は409件に達し、前年比で0.9%増加しました。2018年度から5年連続で前年を上回っており、2013年度以降で最も多い倒産件数となっています。

後継者難による倒産件数の推移を示すグラフ
出典:東京商工リサーチ

後継者難による倒産の主な要因は、代表者の「死亡」(211件、構成比51.5%)と「体調不良」(139件、構成比33.9%)で、合わせて85.5%を占めています。

代表者の不在は、従業員や取引先に不安感を与えます。経営者の平均年齢が上昇傾向にある中、後継者の育成が後回しになってしまうと、代表者が死亡したり体調不良で不在になった時にすぐ対応することができず、事業が滞ったり継続できなくなってしまう恐れがあります。

地域経済を支える基盤である中小企業が直面する事業承継問題は、雇用やGDPにも大きな影響を与え、今や日本全体の深刻な問題となっています。そのため、企業や地方自治体だけでなく国全体で取り組むべき重要な課題として注目されており、後継者不足と廃業問題の解決に向けたさまざまな支援策や政策が打ち出されています。

事業承継の3つの形態とメリット・デメリット

では、事業承継には、具体的にどのようなパターンがあるのでしょうか。事業承継の主な形態である、「同族承継」「内部昇格」「M&A」の3つについて、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。

同族承継

同族承継は、子供や孫、甥、姪などの親族に承継する方法です。

特に子供や孫に承継する場合、幼少期から事業に対して関わりを持つ場合も多く、経営者としての育成に時間をかけられる点が大きなメリットです。後継者の心構えを養うのはもちろん、従業員や取引先からの理解も得やすいでしょう。

また、相続対策や節税対策の計画が立てやすい点もメリットの1つです。贈与の場合、18歳以上の子供や孫が両親や祖父母から贈与を受ける場合は、税率と控除額が一般に比べて優遇される「特別贈与財産用」の税制があります。

贈与税の速算表
出典:国税庁

デメリットは、親族だからといって必ずしも継ぐ意思があるとは限らないことです。また、継ぐ意思があったとしても、経営能力に長けているとも限りません。無理に同族承継を進めてしまうと家族間の関係性が悪化したり、相続トラブルに発展したりする可能性もあります。

同族承継を進めるためには早期のうちに後継者候補を選出し、お互いに意思を固めたうえで事業承継の計画をしっかりと立てることが大切です。

内部昇格による承継

内部昇格は、親族以外の役員や従業員に事業を承継する方法です。

内部昇格のメリットは、経営者と実際に仕事をともにしてきたメンバーから後継者にふさわしい人物を選ぶことができる点です。仕事ぶりはもちろんのこと、企業理念や業界の慣習なども理解しているので、後継者としての育成期間もそれほどかけずにすみます。

ただし、前経営者の経営手法を踏襲する場合が多く、新しい取り組みが必要とされる場合にはデメリットとなる可能性があります。さらに、候補者が数人いる場合には派閥争いが起こることも懸念されるため、候補者選びや周知の方法には配慮が必要です。

M&Aによる承継

M&Aは、合併・買収により親族や役員、従業員ではない第三者に、事業の経営権や資産などを承継させる方法です。近年増加傾向にあり、帝国データバンクの調査によると、2022年に調査開始以降はじめて20%を超えています。

M&Aの大きなメリットは、後継者不在の問題点を解決できることです。親族に跡継ぎがいない、社内に有力な候補がいない場合、多くの経営者は「廃業」を考えるでしょう。そこでM&Aにより事業を売却すれば、事業を継続して従業員の雇用を守ることができます。

デメリットは売却先が見つからず、希望している時期までに承継できない可能性があることです。見つかったとしても統合後に経営方針のミスマッチが発生したり、従業員の雇用条件が悪化したりすることもあるでしょう。

M&Aでは秘密保持契約書(NDA)からアドバイザリー契約書、基本合意書(MOU)、最終契約書(DA)まで、さまざまな書類を作成する必要があります。売却先とのトラブルを防ぐためにも、内容をしっかりと確認した上で、手続きを進めることが大切です

事業承継に向けた3ステップ

では、事業承継の準備を進めるにあたり、何から始めればよいのでしょうか。以下、事業承継に向けた最初の3ステップを紹介します。

1. 経営者の意識改革

まずは、経営者自身が事業承継の必要性を理解することが大切です。後継者の育成には5~10年ほどかかるとされていますので、例えば、70歳に事業承継を完了させるには、60歳を過ぎたら準備を始めるのが理想です。しかし、頭では「いずれ事業承継をしなければならない」とわかっていても、実行に移せないケースも多くあります。

「まだ元気だから」と後回しにしていると、いざという時に跡継ぎが見つからず、思うように事業承継ができないということもあるでしょう。事業承継の事例を参考にしたり、商工会議所や行政が実施しているセミナーに参加するなど、まずは必要性を理解することから始めるのがよいでしょう。

2. 資産や課題の「見える化」

次に、自社の資産や課題を「見える化」します。

会社の資産には従業員などの「ヒト」、設備や不動産、商品などの「モノ」、資金や株式などの「カネ」、顧客データや取引先などの「情報」、特許や企業理念、顧客との関係性などの「知的財産」があります。

特に、知的財産については言語化することが難しく、承継に苦労する資産です。時間はかかりますが、経営者自身が過去から現在までを振り返り、必ず文章として残しておきましょう。

3. 事業承継計画の策定

会社の将来を見据え、 いつ、どのように、何を、誰に承継するのかについて、具体的な計画(=事業承継計画)を策定します。また、「同族承継」「内部昇格」「M&A」など、どのような方法で承継をするかを決定します。

中小企業庁は『事業承継ガイドライン』をはじめ、円滑な事業承継を実現するための取り組みや流れ、注意点などをまとめたガイドライン・マニュアルを公開しています。ぜひ参考にしてみてください。

事業承継税制や補助金などの支援策を紹介

後継者不足を解消するため、国はさまざまな税制や補助金制度を打ち出しています。また、独自の支援を行っている地方自治体もありますので、事業を行っている地域の都道府県や市町村、商工会議所の窓口に問い合わせてみるとよいでしょう。

以下は、中小企業庁のWebサイトで紹介されている事業承継に関する支援策の一例です。

  • 事業引継ぎ支援センター:事業承継に関する相談や、事業承継計画の策定、M&Aのマッチング支援などを実施(原則無料)
  • 事業承継・引継ぎ補助金:日本経済の活性化を図ることを目的に、「経営革新事業」「専門家活用事業」「廃業・再チャレンジ事業」の3事業で補助を交付(7次公募の申請受付は終了しています。今後のスケジュールについては、事業承継・引継ぎ補助金事務局のWebサイトをご確認ください)
  • 事業承継税制(特例措置):後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を100%猶予する特例措置。会社の株式等を対象とする「法人版」と個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版」があります。2024年3月末日までに事業承継計画の提出が必要です。
  • 経営後継者研修:中小企業大学校が実施する、経営者に必要な基礎知識やマインド、スキルを学ぶための後継者育成コース

中小企業が直面する事業承継問題。まずは、事業承継とは何か、承継のパターンや流れ、各種支援について知ることが大切です。いずれは事業承継することを決めている場合は、事業を継続させて将来につなげるためにも、「まだ早い」と後回しにせず計画的に準備を進めていきましょう。

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