人材こそ企業価値向上の原動力!いま注目される「人的資本経営」とは?

人的資本経営について話し合う経営陣と人事担当者

近年耳にする「人的資本経営」。政府による関連政策が推進されるなど、ビジネスパーソンにとって身近な話題となりつつあります。そこで本記事では、「人的資本経営」とはどのようなものなのか、その意味や従来の経営手法との違いといった基礎知識とともに、「人的資本経営」が求められる背景や取り組み方、国内外の現状を解説します。

人的資本経営=人材を「資本」として捉える経営戦略

そもそも「人的資本経営」とは、どのような意味なのでしょうか?経済産業省は以下のように定義しています。

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です(※1)。

ここでいう「人材を『資本』として捉え(る)」について、同省が主催した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の報告書(人材版伊藤レポート)では「人的資源」と「人的資本」を対比させて説明しています。

人材は、これまで『人的資源(Human Resource)』と捉えられることが多い。この表現は、『すでに持っているものを使う、今あるものを消費する』ということを含意する。(中略)しかし、人材は、教育や研修、また日々の業務等を通じて、成長し価値創造の担い手となる。(中略)このため、人材を『人的資本(Human Capital)』として捉え、『状況に応じて必要な人的資本を確保する』という考え方へと転換する必要がある(※2)。

つまり、人材を消費の対象である「資源」ではなく、投資の対象である「資本」として捉え、教育や研修などを通じて人材の価値を高めることで、企業価値向上を目指す経営手法が「人的資本経営」なのです。人的資本経営においては、人材への投資は単なる施策ではなく、企業価値向上を目的にした経営戦略の1つとして位置づけられています。

人的資本経営では、どのような変革を求められるのか?

では具体的に、人的資本経営は従来の経営手法と比べてどのような違いがあるのでしょうか。先に紹介した『人材版伊藤レポート』では、両者の相違点について以下のように解説しています。

人材版伊藤レポート 変革の方向性
出典:経済産業省「人材版伊藤レポート」図表1:変革の方向性

例えば、人的資本経営では「人材マネジメントの目的」が従来の経営手法と異なります。これまでは、人材マネジメントの目的は従業員を「管理」することであり、それに要する人件費や教育研修費は、組織運営上必要な「コスト」として捉えられがちでした。しかし、人的資本経営における人材マネジメントの目的は「価値創造」であり、人件費や教育研修費は企業価値向上という投資対効果を得るための手段と捉えることができます。

また、人的資本経営においては、人材に関する施策は経営戦略の1つに位置づけられるため、その取り組みを主導するのは「人事部」ではなく、「経営陣」や「取締役会」となります。人材に関する施策を制度の策定や運用にとどめるのではなく、経営戦略に紐付け、全社的な取り組みに落とし込むアクションが求められます。

そのほか、人材を資本として捉える考え方は、企業と従業員との関係にも変化をもたらします。人材が資本である以上、企業は従業員を管理するだけでなく、それぞれの個性や能力が発揮されやすい環境を整備しなければなりません。そのため、終身雇用や年功序列などの従来的な囲い込み型の雇用ではなく、専門性を軸に、企業と従業員が選び選ばれる関係の雇用へと転換していく必要があります。

コンソーシアムも設立!日本における人的資本経営の現状は?

現在、日本における人的資本経営はどのような状況にあるのでしょうか。

当初、人的資本経営の普及が進んだのは欧米諸国でした。例えば、2014年にはEUで従業員500名以上の企業に対して、取締役会の構成員の年齢や性別などに関する非財務指標の開示が義務づけられたほか(※3)、2019年には、国際標準化機構(ISO)によって人的資本の情報開示に関する国際規格「ISO30414」が策定されています(※4)。欧米では日本に先んじて、人的資本経営が企業価値向上に資する取り組みとして認知され、市場からの投資を呼び込む手段として人的資本に関する情報開示が進んでいました。

こうした流れを受けて、日本でも人的資本経営への取り組みが活発化しています。2020年9月には人材版伊藤レポートが経済産業省の主導によりまとめられ、人的資本経営への注目が高まりを見せています。さらに、2021年6月には上場企業の企業統治に関するガイドライン「コーポレート・ガバナンスコード」に、女性や外国人、中途採用者の登用に関する施策の実施状況など、人的資本に関する項目が盛り込まれ、企業価値を測る基準としても活用されるようになりました。

そして、2022年8月に政府は「人的資本可視化指針」を閣議決定しました。このなかで、政府は「経営者、投資家、そして従業員をはじめとするステークホルダー間の相互理解を深めるため、『人的資本の可視化』が不可欠」として、企業の人的資本に関する情報開示の手引きを示し、経営戦略への活用を促しています(※5)。

現在、人的資本経営とその情報の開示は、長期的な企業価値の向上や競争力強化を図るうえで欠かせない取り組みといえます。実際に、大手企業を中心に人的資本に関する情報開示が進んでおり、例えば、国内大手製造業K社は「社員一人あたりの研修平均時間・年間費用」「海外現地法人女性経営層候補向け教育の受講人数」「階層別研修受講人数」「役員・グローバルオフィサーの現地社員数」など、独自で定めた人的資本に関する情報を複数開示しています(※6)。

こうしたことからも、今後、企業にはますます人的資本経営が求められると見込まれます。2022年7月に発足した「人的資本経営コンソーシアム」では、人的資本経営の実践に関する先進事例や効果的な情報開示方法などに関する検討を行っています。こうした組織の情報を活用しながら、自社の取り組みを進めていくのがよいでしょう(※7)。

また、「人的資本経営は単なる人事施策ではなく、経営戦略の1つ」と捉える視点もポイントです。そのため、人的資本経営に取り組む際には、人事施策と経営戦略との連動を意識し、総合的に取り組みを進めることが重要です。

例えば、リスキリングであれば、単に従業員に研修やオンライン教材を提供するだけではなく、その実施状況や効果、従業員の満足度などを測定し、経営全体にどのような影響を与えているのかを検証・開示する必要があるでしょう。弊社ブログ記事『日本のリスキリングの現状は?企業が活用できる事例や支援制度も紹介』では、日本におけるリスキリングの現状や実践事例を紹介しています。ぜひ人的資本経営の実践にご活用ください。

 

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