2022年のITキーワード「トータル・エクスペリエンス(TX)」って何?

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2022年に押さえておきたいITトレンドとして、「トータル・エクスペリエンス(TX)」というキーワードがあります。これは、昨年10月にGartner社が発表した『2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド』の中でも掲げられており、「成長の加速」「変化の形成」「信頼の構築」の3つのテーマのうち、「成長の加速」に分類されています。

本記事では、「トータル・エクスペリエンス(TX)とは何か」といった基礎知識から、TXを向上させるためのポイント、TXへの取り組みで得られる効果までをわかりやすく解説します。

トータルエクスペリエンス(TX)とは

Gartner社の『2022年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド』では、トータルエクスペリエンス(TX)はCX、EX、UX、MXを融合させたビジネス戦略とされています。企業が利益を上げて成長していくためには、いかに優秀な人材と顧客を確保するのかが課題となります。そのため、ビジネス戦略を考えるうえで、CXとEXの2つはよく議題に取り上げられてきました。しかし、これら2つの概念は基本的には別々に取り扱われ、両者の相互作用や影響はほとんど意識されることがありませんでした。

このような状況下で、トータルエクスペリエンス(TX)という概念は生まれました。TXの考えでは、顧客や従業員など関わる人にとっての総合的な満足度の向上を目指し、これまで分断して取り扱われていたCX、EX、UX、MXを統合して、広い視点から包括的なアプローチを目指します。これにより、今までにない統合的な施策を実行することができ、利益拡大につながるとしています。

TXを構成する4つの概念

TXを意識したビジネス戦略では、従業員や顧客など企業を取り巻くすべての人々に「優れた体験」を提供することを重視します。冒頭でも述べたTXの構成要素である「CX」「EX」「UX」「MX」の4つをリンクし、向上させることで「優れた体験」を生み出すことができるのです。

まずは、TXを向上させるためのポイントを知るために、これら4つの概念についておさらいしておきましょう。

カスタマーエクスペリエンス(CX)

カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience / CX)は顧客体験を意味する言葉です。例えば、お店で商品を購入する場合、顧客はまず目的の商品があるお店を探すことからはじめ、実際にお店に訪れた後は商品の探索、比較、検討を行い、購入に至ります。さらに、購入後に不明な点や初期不良があればカスタマーセンターに問い合わせるかもしれません。このように、商品の購入だけでなく、その前後でも顧客はさまざまな体験をします。

CXの改善を考える際は、顧客の目線に立ち、一つひとつの行動をフォローして、各工程で改善点がないかを探ることになります。

エンプロイーエクスペリエンス(EX)

エンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience / EX)は企業で働く従業員の体験を意味し、具体的には労働環境や職場の人間関係、給与や手当などの待遇、出世、キャリア形成など、仕事に関するあらゆる事柄、経験がEXに含まれます。

EXの向上により、例えば、社員定着率の向上が期待できます。また、仕事へのモチベーションがあがり、生産性が向上することで、より良い商品やサービスが提供できるようになり、CXの向上につながることもあります。

ユーザーエクスペリエンス(UX)

ユーザーエクスペリエンス(User Experience / UX)はユーザーが商品やサービスを利用する際の体験を指す言葉です。UXは商品、サービスにフォーカスした概念であり、商品開発やサービスの改善などに役立てられます。よく似た言葉としてUI(ユーザーインターフェース)がありますが、UIは単にユーザーとの接点を指すのに対し、UXでは商品、サービスの利用を通してユーザーがどのように感じたのかを重視します。

例えば、Webサービスの場合、Webサイトから目的の情報を探していたがレイアウトが雑然としていて見つからない、購入画面への遷移がスムーズである、ページ遷移時の表示速度が遅いなどがUXとなります。

マルチエクスペリエンス(MX)

マルチエクスペリエンス(Multi-Experience / MX)とは、さまざま知覚、アプリ、デバイスなどを用いて得られる複数のタッチポイントからの一貫した体験を指します。MXは拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、IoTなどの技術を通して実現されます。新しい概念であるため、MXを意識した取り組みを行う企業はあまり多くはありませんが、「Domino's Anyware」と呼ばれるドミノ・ピザの事例がよく知られています。これは、顧客がSNSやGoogle Home、Amazon Alexaなどのスマートスピーカー、Slackなどから好きなメニューを注文できるようにするとともに、「ピザトラッカー」で注文を追跡できるようにして、注文品の配送は自律走行車で行われるようにする取り組みです。顧客がデジタル技術を使って、あらゆるデバイスやプラットフォームから注文できるようにするという目標の達成に向けて、MXが活用されています。

TXへの取り組みで得られる効果とは

TX向上に取り組むことで得られる効果としては、「商品、サービスの品質向上」や「イノベーション・新たな価値の創出」などが挙げられます。

より良い商品、サービスを提供するにあたり、これまでCXやEX、UXなどを意識した取り組みを行ってきた企業も多いことでしょう。しかし、それぞれの体験は相互に作用するものであるため、一方を改善することで他方にも影響を及ぼす可能性があります。

例えば、顧客のさまざまな要求に応えるようにすれば、CXは向上するかもしれません。しかし、同時に従業員への負担が大きくなってしまうこともあります。これにより、EXは低下し、商品、サービスの質が落ち、結果としてトータルで見るとCXが低下してしまうことも考えられます。

これに対して、TXは顧客、従業員双方の満足度を考慮した改善を行うため、トータルでプラスとなるのかといった視点のもと、商品・サービスの品質向上を目指すことができます。

また、TXはイノベーションや新たな価値創出にも役立つとされています。次項で詳しく解説しますが、TXを高める際には組織間での協力や連携体制の強化、脱サイロ化が行われます。組織のサイロ化が解消されると、種々のデータを統合でき、包括的な分析が可能となります。昨今では、ビジネスの現場においてもビッグデータを活用する動きが見られ、ポジティブな効果を示す事例もよく取り上げられています。そのため、統合されたデータから新たなアイデア、施策が生まれる可能性もあります。

このように、TXを向上させると、従業員や顧客の満足度を上げながら、企業の成長、利益の拡大につなげることもできると考えられています。

TX向上のポイントとその方法

TX向上のポイントは、広い視点でビジネスに関わる人々の体験を見直し、全体で見た時にメリットがある、つまりプラスとなる施策を講じることです。

ここでいう体験とは、冒頭で解説したTXを構成するCX、EX、UX、MXの4つを指しています。これら4つの体験はコミュニケーションを通して改善の方向性が見えてきます。例えば、CXであれば、商品探し、入店、購入、退店といった一連の体験に対する顧客の声に耳を傾けることで、改善点を見つけ出せるでしょう。また、広い視点を持つには、脱サイロ化や部門ごとの壁をなくして相互に連携した組織を構築する、顧客と従業員がシームレスにコミュニケーションが取れるようにするなど、組織内、あるいは組織と外部をうまく連携させることが有効とされています。

TXにおいても、企業や従業員、顧客の声に耳を傾けることで改善点が見えてくると考えられます。改善すべき箇所が分かれば、あとは問題に応じて適切な施策を行うことでTXの向上が期待できます。ただし、TXへの取り組みはCX、EX、UX、MXを個別に取り扱うのとは異なることに注意が必要です。TXでは、ビジネスに関わる人々の体験のつながり、関係性も意識して、4つの概念をまとめて考える「広い視点」を持つことを重要視します。

これからTXの向上を目指していく場合は、これまでの業務フローを見直したりITツールを活用するなど組織内外の連携体制を強化し、事業に関わる人々の体験に改善すべき点はないか見直すところからはじめるとよいでしょう。

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