グレーゾーン解消制度とは?申請方法や活用事例を紹介

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日本経済の成長を促す原動力となるイノベーションの創出が求められる昨今、医療や士業、IT・ソフトウェアなど様々な業界で「グレーゾーン解消制度」が活用されています。グレーゾーン解消制度とは、新規事業の創出を目指す企業が、厚生労働省や総務省、国土交通省などの事業所官庁に、新規事業に関する法的規制をあらかじめ確認できる制度です。では、グレーゾーン解消制度を活用することで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、制度が設けられた経緯や活用事例などを交えながら、グレーゾーン解消制度の全体像をわかりやすく解説します。

グレーゾーン解消制度の目的は「産業競争力強化法に基づいた規制改革」

経済産業省は、グレーゾーン解消制度を「新たな事業活動を行おうとする事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な分野においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ、規制の適用の有無を確認できる制度」としています(※1)。新規事業のボトルネックになり得る法的規制の有無をあらかじめ明らかにすることで、企業のイノベーション創出を促すことが、グレーゾーン解消制度の目的です。

この制度は、2014年に施行された「産業競争力強化法」に基づいて設けられています。産業競争力強化法は、日本経済の低迷は3つの「過」(過少投資・過当競争・過剰規制)にあるとして、規制改革や新規事業開発の促進、中小企業支援などを定めた法律です。

規制改革のスキーム
規制改革のスキーム(出典:経済産業省 産業強化法に基づく企業単位の規制改革制度について)

グレーゾーン解消制度のポイントは、事業所管省庁が事業者をサポートする役割を担い、規制所管省庁に向けて積極的な働きかけを行うことです。新規事業を手掛ける際、企業を所管する事業所管庁と、新規事業の分野の規制を担当する規制所管庁が異なるケースは少なくありません。企業にとっては、もともとの所管と異なる省庁に、法的規制の有無を確認するのには様々な手間が必要です。

しかし、グレーゾーン解消制度では、規制所管庁への照会作業などを事業所管庁が担当します。企業は、自ら規制所管省庁に照会しなくてよいため、規制の有無や実現するために克服すべき課題をスムーズに把握でき、安心して新規事業に取り組むことができます。

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グレーゾーン解消制度の申請方法は?回答までの期間は?

では、グレーゾーン解消制度はどのように利用するのでしょうか。

グレーゾーン解消制度を利用する企業は、事業計画や規制適用の有無を確認したい法令をまとめ、所定の様式を作成して事業所管官庁に提出します(※2)。規制所管庁は、事業者の具体的な事業計画に即して、規制の適用の有無を判断し事業所官庁に回答します。回答にかかる時間は、原則1カ月以内(1カ月以内に解答ができない場合は1カ月ごとにその理由を申請者に通知)となっています。

グレーゾーン解消制度のイメージ
グレーゾーン解消制度のイメージ(出典:「企業単位」の規制改革スキームの活用概況と課題)

なお、グレーゾーン解消制度の様式は、記入例とともに経済産業省のWebサイトで公開されています。制度の利用を検討されている方は、こちらを参考にしてください。

グレーゾーン解消制度の活用事例

グレーゾーン解消制度はすでに、様々な分野・業界で活用されており、新たなサービスの開発やイノベーション創出に貢献しています。以下では、グレーゾーン解消制度の活用事例の一部をご紹介します(その他の活用事例は、経済産業省のWebサイトをご覧ください)。

健康サービス(事業所管庁:経済産業省 規制所管庁:厚生労働省)

経済産業省所管のA社は、スポーツクラブやドラッグストアなどで健康状態を確認できる新規事業を計画し、制度を活用。経済産業省が厚生労働省に照会を実施したところ、スポーツクラブやドラッグストアでの採血健康診断について「(看護師の採血行為には医師の指示が必要となるが)医師の立会いまで求めるものではなく、書面又はタブレット端末を利用して行われたとしても、保健師助産師看護師法に違反するものではない」ことが確認されました(※3)。

税務申告ソフト(事業所官庁:経済産業省 規制所管庁:国税庁)

税理士のリモートワークを実現するためのクラウド型税務申告ソフトの提供を検討しているB社は、税理士事務所の職員がB社のサービスを利用して、リモート勤務する場所で税理士事務所の業務を行った場合、その場所が税理士法の「税理士事務所」に当てはまらないか、国税庁に照会を実施。その結果、会計事務所の内規に在宅勤務などに関する勤務規定を含めたうえで、リモートワークを適法とすることが確認されました(※4)。

電子契約/電子署名(事業所管官庁:経済産業省 規制所管庁:国土交通省)

ドキュサインでもグレーゾーン解消制度を活用しており、2019年5月、ドキュサインの電子署名が建設業法施行規則に規定される技術的基準を満たしているかについて、国土交通省に照会を行っています。その結果、ドキュサインが提供するクラウド型電子署名方式(「DocuSign eSignature」 および「DocuSign Express(現:DS Email)」)は、建設業法に適合する情報通信技術を利用した方法であり、建設工事の請負契約で利用できることを確認しました。詳細は、『ドキュサインの電子署名を建設工事請負契約締結に利用できます』をご覧ください。

 

このように、グレーゾーン解消制度は、新規事業開発の障壁を取り払い、イノベーションの創出を後押しします。ただし、グレーゾーン解消制度は「法的規制の適用の有無」を確認しているのであり、「事業全体の合法性」を確認しているわけではないということに注意が必要です。法的規制がないことを確認した場合でも、新規事業計画のその他の部分に法的規制が想定される場合には。その部分に関する新たな確認を行う必要があります。

2022年6月には、政府主導による「規制改革実施計画」が閣議決定され、岸田内閣の目指す「新しい資本主義」の実現に向けて、さらなる規制改革が進められています(※5)。今後、既存の法的規制の見直しにより、新しい技術の登場やイノベーションの社会実装が促進され、日本における成長産業の創出や社会経済の発展が期待されます。

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参考:

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