デジタル社会を支える「雲」- クラウドの正体とは?

Cloud in blue sky

ICTのあらゆる領域で欠かせない存在になっているクラウド。「便利」「低コスト」「安全」といった数々のメリットが受け入れられ、急速に普及が進んでいます。最近はすべての機能をクラウドで提供するサービスも増えて、皆さんも無意識のうちに日々利用しているのではないでしょうか。(ドキュサインの電子署名ソリューションもクラウド上で提供されています!)

ただ、この「クラウド」が一体どういうものなのかについては、意外と知られていません。今回は無限の可能性を持つと言われるクラウドの「正体」について、押さえておきたい基礎知識と今後の展望をまとめました。

「クラウドって何?」いまさら聞けない疑問に回答

クラウドとは「クラウドコンピューティング」の略で、インターネットなどのネットワーク経由でサービスを提供する仕組みや利用形態のことです。この言葉は主に技術者がシステム図でネットワークを「雲(Cloud)」の形で表現していることから名付けられました。雲には「空中に浮かぶ」というイメージがありますが、クラウドはシステムを手元に置かずに(自社で保有せず)利用することを意味しています。

データやアプリケーションを手元に置かずに利用するクラウドサービスで有名なものには、世界で多くの人が利用しているWebメールやオンラインストレージがあります。これらのサービスでは、ユーザーのデータは「どこかにある」運営会社のサーバーに保存されていて、インターネットに接続できる場所ならどこからでもアクセス可能であり、データのある「場所」を意識せず利用できることが最大の特徴です。

クラウドが登場する前、企業で使われるシステムは社内にサーバーを設置する「オンプレミス」と呼ばれる方式が主流でしたが、システム構築に多額のコストがかかることや、管理・保守の負担が大きいといった課題を抱えていました。一方、データをサービス事業者(社外)で保管するクラウドは大幅なコスト削減を可能にするとともに、高度な技術を持つサービス事業者が保守を担当することで信頼性の向上も期待できます。当初はセキュリティ上の懸念からデータの社内管理を選択した企業もありましたが、クラウドはその後、政府・自治体や金融機関、病院といった高度なセキュリティを必要とする組織が続々と導入を進めているほか、サービス品質を保証する取り決め(SLA)を整備するなど、「安全・安心なサービス」として認知されています。

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クラウド化のメリットとは?

強固なセキュリティ

それでは、オンプレミスシステムのクラウド化には、どのようなメリットがあるのでしょうか。いくつかの項目を挙げてみましょう。

  • システム構築の省力化:サーバーなどの機器類やソフトウェアの購入・設置はサービス事業者が行うため不要で、従来に比べ短期間で導入が可能。
  • 運用管理の効率化:システム・ソフトウェアの更新やアップグレードもサービス事業者が行うため、日々の運用管理が容易に。
  • コスト削減:ハードウェア・ソフトウェアの費用、管理要員の人件費、機器設置スペースの賃料や電気料金など、多方面からのコスト削減が可能。
  • セキュリティ強化:サービス事業者側の専任スタッフによるサポートで、安全な運用を保証。

他にも、利用場所を問わないメリットを活かしたテレワークへの対応や、従量課金によるランニングコストの削減、さらには共有・同期機能による部門を越えた全社的なグループワークの推進など、クラウドは従来のビジネスを効率化して、生産性を高める実力を持っています。

情報システムをオンプレミスからクラウドに切り替えたある企業のケースでは、負担の大きかったデータ入力作業をクラウドサービスで自動化することにより大幅な時間短縮を実現し、長年の課題だった時間外労働の削減に成功しました。同時にクラウド上のデータを経営側と共有することで報告書や資料の作成が不要になり、ビジネス全体のスピードアップにつながったとの評価を得ています。

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SaaS、PaaS、IaaS……クラウドの未来図は?

よくニュースなどで「〇〇クラウド」などと、ひとまとめに扱われることが多いクラウドサービスですが、提供するサービスの内容により、いくつかの種類に分けることができます。

  • SaaS(Software as a Service):インターネット経由で必要なソフトウェアの機能を利用できるサービス(Gmail、Twitter、Salesforce、ドキュサインなど)
  • PaaS(Platform as a Service):アプリケーションを実行するためのプラットフォームを提供するサービス(Microsoft Azure、Google App Engine、Amazon S3など)
  • IaaS(Infrastructure as a Service):システムの稼働に必要なハードウェアなどのインフラを提供するサービス(Amazon EC2、VMware Cloud on AWS、IBM SoftLayerなど)

日常的なビジネスシーンで使われる機会の多いサービスは「SaaS」でしょう。これまでパッケージ製品として導入し、個別にインストールする必要があったソフトウェアを「必要なときに必要な分だけ」使えることのメリットは大きく、急速に普及が進んでいます。一方、PaaSやIaaSはシステムを稼働するための仕組みを提供するもので、「SaaSの進化形」と言うことができます。

クラウドサービス事業者は、ユーザーのニーズに対応するためさまざまなサービスを用意しています。デスクトップ環境をクラウドで利用する「DaaS(Desktop as a Service)」、人の移動(交通)をクラウド化する「MaaS(Mobility as a Service」など続々登場していますが、これらはすべて「サービスとしての〇〇」を意味しており、今後は一層多様化が進むと思われます。

なお、クラウドサービスの提供スタイルには、特定ユーザーだけを対象に構築する「プライベートクラウド」と、不特定多数のユーザーが共有して利用する「パブリッククラウド」があります。プライベートクラウドは拡張性、信頼性の高さを、パブリッククラウドは手軽さと低コストを前面に打ち出していますが、業務内容と利用目的に応じて最適なサービスを選択することが大切です。

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まとめ

クラウドを活用したテレワーク

クラウドサービスの普及に合わせて、ICTの新技術発展も加速しています。たとえば従来のシステムでは処理が困難なほど膨大な情報である「ビッグデータ」や、大量の情報を瞬時に分析する必要がある「自動運転」、身近なモノに組み込んだセンサーからの情報を活用する「IoT」は、クラウドと連携することで飛躍的に処理能力が高まり、実用化を推進する原動力になっています。

これまであまりクラウド化が進んでいなかった分野でも、導入の動きが広がっています。日本政府は2020年秋から人事・給与・文書処理といったシステムをクラウド化する予定ですが、これと並行して各省庁や裁判所でもクラウド型ツールの導入を積極的に進めるとしており、「民間に比べ数年遅れている」と言われた状況が変わりつつあります。

また、「働き方改革」の本格化、および新型コロナウイルス感染症拡大によるテレワークの普及は、そのままクラウド利用の急増につながっています。ただし、利用の内訳を見ると多くはビデオ会議やチャットツールなどのSaaSが占めていて、PaaS、IaaSの導入はそれほど進んでいません。各クラウドサービスの特徴を理解して自社のビジネスに役立つ仕組みを取捨選択し、西遊記に登場する「筋斗雲」のように自由自在に使いこなすテクニックを身につけることが求められるでしょう。

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筆者
安達 智洋
シニア・コンテンツ・マーケティング・マネージャー
公開