電子署名の利用を検討する際に知っておきたい法的ポイント

電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新事情

タブレットに電子署名する男性

ドキュサインでは、電子署名について理解を深め、安心して導入していただけますよう様々なトピックでウェビナーを開催しています。2020年9月23日(水)開催の特別ウェビナー「電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新事情」(以下「本ウェビナー」)には、非常に多くの方にご参加いただきました。今回のブログでは、本ウェビナーにご登壇いただいたアンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル弁護士 宮川賢司氏による解説のハイライトおよび質疑応答の内容を中心にご紹介します。

なぜ今、電子署名の検討が必要なのか

新型コロナウイルス感染症対策のひとつとして在宅勤務が拡大している中、内閣府規制改革推進会議を中心に押印廃止の動きが本格化し、電子署名の需要が急速に高まっています。また、2020年9月4日に法務省などが発表した「電子署名法第3条に関するQ&A(以下、「3条Q&A」)」により、同法3条の適用範囲が明確になりつつあります。電子署名を活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、書面・対面・押印を必要としないプロセスを構築していくことが求められており、こうした変化に対応するために、社内規程変更などの体制整備などの対策が急務となっています。

電子契約でも形式的証拠力と実質的証拠力の両方を確保することが重要

前提として、法律上、書面での締結を必要とするもの以外は口頭であっても成立しますので、電子署名を使った契約であっても民法等の実体法の世界では有効です。しかし、紛争になった場合に必要な証拠力(電子署名により締結した電子契約が証拠としてどこまで利用できるかという問題)として、形式的証拠力および実質的証拠力の双方を検討する必要があります。

形式的証拠力:作成名義人(その文書の作成者とされている者)により作成されたものかどうか。その文書を事実認定の際に利用して良いか、という入口の問題。
実質的証拠力:その文書が事実認定にどこまで役立つか。形式的証拠力の問題がクリアされた上で、その文書の証拠としての価値(たとえば、その文書と矛盾する証拠(文書や証言等)がある場合にどちらを信用するか)の評価の問題。

(本ウェビナー用に2020年9月23日付でアンダーソン・毛利・友常法律事務所により作成された「電子署名がなされた電子契約の証拠力に関する最新事情」資料(以下「本ウェビナー資料」)より抜粋)

民事訴訟法における原則では、訴訟法上の証拠力として、形式的証拠力と実質的証拠力という2つの局面があります。文書の形式的証拠力に関しては、民事訴訟法第228条第4項に、当事者本人の印章によって顕出された印影があれば本人による押印がなされたものと推定するという趣旨の定めがあります。

電子契約においては、形式的証拠力が認められなければ、そもそも民事訴訟の証拠として利用できません。また、形式的証拠力が認められても、実質的証拠力が乏しければ、契約内容の立証はできません。そのため、電子契約についても「形式的証拠力と実質的証拠力の両方を確保することが重要」と宮川氏は本ウェビナーで指摘しています。

電子署名の種類と電子署名法に関する最新の動向

電子署名とは、電子契約等の電子文書に対して当事者(間)で、当該電子文書の内容に合意し当該電子文書を締結又は発行する旨の意思表示を電子的に安全に記録する仕組みや技術をいい、以下のようなものがあります。

  • ローカル型電子署名:電子署名の秘密鍵等をICカードやユーザーのパソコン等で管理し、ユーザーの手元で電子署名を付与する形式
  • クラウド(リモート)型電子署名:クラウドサービス上で電子署名の管理及び電子署名を付与する形式
    • 当事者型電子署名:契約当事者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子署名サービス
    • 立会人型(事業者型)電子署名:契約当事者の指示に基づき、電子署名業者の署名鍵により暗号化等を行う電子署名サービス

DocuSign eSignature  は立会人型(事業者型)電子署名にあたりますが、ここ数か月の間に政府より発表された立会人型(事業者型)電子署名の適応に関するQ&A等を参照しながら、電子署名を用いて作成された電子契約の証拠力に関する最新の動向をご紹介します。

2020年7月2日に実施された「第8回 規制改革推進会議」で、押印を不要化する方針が改めて確認され、2020年中に「電子署名法第2条及び第3条の適用に関するガイドラインを策定する」ことになりました。加えて、不動産分野や金融分野などにおいても、押印・対面取引の見直しを進める方針が発表されています。

押印に関しては、2020年6月19日に発表された「押印に関するQ&A」で、押印が有する効果が限定的であると説明され、形式的証拠力を証明する手段については、多様な手段がありうるとも説明されています。また、2020年7月17日の「電子署名法第2条に関するQ&A」では、「電子署名ユーザーの意思のみに基づき、電子署名業者の意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合」には電子署名法第2条が「クラウド型立会人型電子署名に適用されること」が明言されました。

電子署名法第2条第1項第1号の「当該措置を行った者」に該当するためには、必ずしも物理的な当該措置を自ら行うことが必要となるわけではなく、例えば、物理的にはAが当該措置を行った場合であっても、Bの意思のみに基づき、Aの意思が介在することなく当該措置が行われたものと認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はBであると評価することができるものと考えられる。

(本ウェビナー資料より抜粋)

また、2020年9月4日発表の3条Q&Aでは、クラウド型立会人型電子署名について、利用者と電子署名業者間のプロセスと、利用者の行為を受けて電子署名事業者内部で行われるプロセスの双方で「固有性の要件*」を充足する必要があると回答されました。一般論として、二要素認証による本人確認、暗号の強度や利用者ごとの個別性を担保する仕組みが確保されることで、クラウド型の立会人型電子署名でも、第3条の適用が認められる可能性があります。

*暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないと認められること

電子署名・電子契約の導入に向けたチェック項目と質疑応答

電子署名・電子契約を導入する際にチェックするポイントとして、宮川氏は、目的を明確にして、過去に締結している各種契約を類型化し、法的リスクを分析すること、そして契約相手との信頼関係や電子契約の適応性などについて理解することを推奨しており、「社内の体制を整備して、契約以外の手続きに関する電子化も検討の余地があるのではないでしょうか」と、本ウェビナーで述べています。

具体的な取り組みの案として、宮川氏は「すべての契約を電子契約に移行するのは難しい場合には、まずは紙ベースで電子契約の締結者の権限等を定める基本契約書の締結を行い、個別の案件に関する契約(個別契約)を電子契約で対応する方法も考えられます(本ウェビナーでの発言)」と補足しています。

後半の質疑応答のセッションでは参加者の皆さまから多くの質問が寄せられましたが、その中からいくつかピックアップしてQ&A形式でご紹介します。

電子署名法第3条適用のための二要素認証はどのようなものがあると想定できますか。また、それはドキュサインで対応できますか?

ドキュサインの場合、ユーザーIDとアカウントがあれば、二要素になります。二段階であれば、Eメールを確認する際、ユーザーのパスワードにアクセスして確認するので、一段目となります。二段目をデバイス認証、またはSMSや電話認証で対応できます。

具体例としては、3条Q&Aにもありますが、メールアドレスとログインパスワードに加えて、スマートフォンへのSMS送信による単体パスワード入力があります。

二要素認証により固有性の要件を充足する立会人型電子署名と、従来より法令上の要件を満たすとされてきた当事者型電子署名とで、実質的な証明力等において差異はあるのでしょうか?

実際に判例がないため裁判所の判断を待つ必要がありますが、立会人型でも3条Q&Aの要件を充足する可能性があると考えられます。どこまで積み上げれば「立会人型=当事者型」のレベルになるかについては、政府より正式な見解は出されていません。そのため、まだ明確な解はありません。

電子署名法3条のQ&Aを踏まえれば、固有性の要件を充足する立会人型であれば、当事者型に近づく可能性があります。

社内の規則に基づき、代表者印や部門長印等の代理押印の権限を付与された者が電子押印の行為を行った場合、代表者や部門長の本人性の証明ができませんが、この場合、当該電子契約は無効になりますか?

印鑑の世界では、代表者より権限を委任された者が適切な社内手続の完了後に代表者の使者又は代理人として代表印を押印することはありますが、押印の代行のように、他人名義の電子署名の代行又は代理が認められるかは、議論がようやくはじまったばかりです。賛否両論ありますので、気になるのであれば、電子署名における署名指示のアカウント保有者自身が実際の電子署名行為を行うのが安全かと思われます。

弁護士に聞く!電子契約でも代理署名・代理押印は可能?』では、「代理署名」や「代理押印」が根付いている企業文化の中で、スムーズに電子契約化を進めるためのポイントを解説しています。あわせてご覧ください。

電子契約する際、双方の担当者レベルで操作・完結してしまうケースが実際は多いと思うが、ドキュサインはそのやり方を推奨していますか?もしくは、権限(決裁)者本人が必ず、署名・押印すべきでしょうか?

日本と欧米には違いがあります。海外では、決裁権者、つまり契約の責任をとることができる人が基準となります。

日本の場合、紙の契約書でどのように契約締結していたかを確認する必要があります。紙ベースの契約書について、相手方との信頼関係や法的リスクが小さいこと等を理由に担当者の認印のみで締結してきた契約類型については、電子署名においても担当者による電子署名のみで電子契約を締結するという整理もありえます。これに対して紙ベースの契約書において、相手方の代表印捺印を要求していた契約類型については、慎重な対応が必要となります。どちらの類型についても、入り口のところで紙ベースでの基本契約書を締結した上で、個別契約を電子契約で締結することでリスクを低減する方法は有益と思われます。

(紙の)文書の場合は紛失・滅失防止のため社内ルールで原本管理が徹底されます。電子契約の場合、ドキュサインのサーバー内にある記録が原本、管理のために別サーバーに保有するコピーは写しととらえればよいですか?

電子契約(電磁的記録)の原本性に関する議論は、まだ始まったばかりと言えます。例えば、ドキュサインのクラウド上から特定の電子契約に関するデータが消失したとしても、同一の電子契約に関するデータを自社のサーバー等で保存していれば、当該データを原本として扱う可能性もあります。

ドキュサインでは、未認証のメールアドレスで署名できますが、その場合は証拠力は低くなりますか?

二要素認証において固有性要件を充足しない場合は、電子署名法第3条の適用は難しいと考えられます。ただし、電子署名法第3条の推定効が認められない場合であっても、例えばこれまで代表印ではなく担当者の認印で締結してきた契約類型については、電子署名法第3条の適用が認められない電子署名であっても利用可能であるという整理もありえます。その場合であっても、契約締結前後の事情を証拠化することで将来の紛争リスクに対応することは有益と考えられます。

ドキュサインのサービスを解約した場合のリスクはありますか。

(署名完了後)ダウンロードしたPDFファイルには、電子署名が施されています。一意に存在しているハッシュ値で管理されていますので、PDFファイルが単独でも、誰の意思で合意されたかを確認できます。ただし、(PDFを印刷した)紙のみで電子ファイルがない場合は、ハッシュ値が検証できないので、ドキュサインではサポートすることはできません。

相手方の本人確認について、ドキュサインで身元確認を実施できますか。

ドキュサインでは、DocuSign ID Verification というサードパーティのID確認サービスと組み合わせた身元確認サービスを提供していますが、日本でのローンチ時期は未定です。

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