沢渡あまね氏に聞く!新たな勝ちパターンを生み出すDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)をキーワードに、ビジネスや働き方に大きな変革が求められています。しかし、なかにはDXに取り組みながらもうまくいかず、舵取りに葛藤している企業もあるようです。そうした企業の課題はどこにあるのでしょうか。それに関連して、そもそもDXの本質とはどのようなもので、私たちはどんな未来を目指すべきなのでしょうか。これまで400を超える企業・自治体・官公庁で、組織変革、働き方改革、マネジメント改革を支援し、多くの著書を持つあまねキャリア株式会社 代表 沢渡あまね氏に伺いました。

沢渡あまね氏に聞く!デジタル時代を生き抜く新しい働き方と未来像(全3回連載)

① 新たな勝ちパターンを生み出すDX
② ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションのあり方
デジタル時代を生き抜く働き方とその先に広がる未来

DXがうまくいかない日本企業に見られる特徴とは

沢渡氏:(以下同)DXは、今や多くの日本企業が取り組んでいる経営課題です。しかし、すべてがうまくいっているわけではありません。なかには着手すら難しい企業、挑戦はしてみたものの暗礁に乗り上げている企業もあるようです。そのような企業によく見られる特徴として、私は大きく2つあると考えています。1つは「過去の勝ちパターンを手放せない」、もう1つは「意識が内向き志向で、外に向いていない」です。

これらの要因は、DXが「変革」であると認識できていないからです。デジタルトランスフォーメーションの「トランスフォーメーション」は変革を意味します。今までの当たり前を疑うところから始めるべきで、そこには従来のルールや組織体制のしがらみからの解放、価値観や固定概念の変化も含まれています。当然、生みの苦しみを伴う取り組みでもあります。産業革命を例にすればわかりやすいでしょう。このときは石炭を使う蒸気機関から石油を使う内燃機関への大きな変化が起き、石炭関連産業が衰退していきました。

だからこそ今、必要なのは「両利きの経営」です。主力事業の絶え間ない「改善」と、新規事業に向けた「実験と行動」を両立させる経営を示しています。今日、明日を生きるために主力事業に取り組む一方で、未来のために新たなチャレンジをする、景色を変えてみるなど、組織の中に変化を起こし、時間をかけて育て、中長期にわたって新しい成果を生む「勝ちパターン」の構築が非常に重要です。図1でいえば、Ⅱ→Ⅲ→Ⅰのサイクルを作るための仕組み作り、体制作りが企業に求められています。

既存事業とDX&イノベーションのマッピング
図1:既存事業とDX&イノベーションのマッピング
(​​出典:沢渡あまね講演資料ダイジェスト)

このサイクルの確立には時間がかかります。しかし、まだ終身雇用が存在する日本企業にとって、このようにじっくりと取り組む中長期のイノベーションは、本来、日本企業が得意とする分野のはずだと、私は未来を明るく捉えています。

垣根を越えて、新たな『勝ちパターン』を生み出す

「DXは変革である」と申し上げました。それがどのような変革かといえば、「あなたの組織にとって、目指したい未来はどのようなものか」に対する答えになります。DXはあくまで手段ですから、企業が自社なりに定義してゴールに向かえばいいのです。私個人が説明する際、「垣根を越えて、新たな『勝ちパターン』を生み出す」のがDXであると答えています。DXによって、既存事業や企業・組織の枠を越えたつながりが見つかり、今までにない成果を生み出せるようになっていきます。

こう言うと、DXなのにどこにも「デジタル」が入っていないと指摘を受けるケースがあります。それは、今の時代、垣根を越えてつながるために最も手っ取り早く合理的な手段はデジタルの活用で、この活用が前提条件だからです。デジタルツールを使いこなしたり、デジタルで今までとは違う人たちとつながったりして垣根を越え、違う勝ちパターンを生み出すような体験をしてこそDXなのです。

例えば、農業×ITのかけ合わせで実現する「アグリテック」。ここでは、気候変動に左右されずに、土地の良さを生かしながら、しかも人が24時間365日現場に常駐せず、より付加価値の高い野菜の栽培が可能になります。デジタルでマーケティングを行えば、地域外の人や海外の人にアプローチもできます。D to C(Direct to Consumer)といいますが、デジタルを使うからこそ、このように直接消費者(Consumer)とつながり、消費者から直接フィードバックをもらうといった新しい経験・体験も得られます。このように、「垣根を越えて、新たな『勝ちパターン』を生み出す」のは、デジタル活用を前提としています。

変革に向けた最初の一歩は「デジタルエクスペリエンス」 

デジタルによる新たな世界への始まりに希望を見い出し、変わろうと決意した企業・組織は、何から始めたらよいのでしょうか。おすすめしたいのは、「デジタルエクスペリエンス」。簡単に言うと、デジタル活用による経験の蓄積です。新たな取り組みとなると一大決心が必要で、努力も必要であると思うかもしれません。しかし、最新のITは多くがクラウドサービスとして提供されており、コストを抑えながら、使用感も抜群です。まさに、クラウドサービスは中小企業や地方企業がITを利用するハードルを著しく下げてきたと言えるでしょう。

一昔前なら、サーバを調達して、プログラムを開発してくれる会社を探して見積りを依頼。その後、社内稟議を通して、アプリケーションの要件定義を固め、開発、テスト、リリース、そして運用保守する長い手続きが必要で、実際に使い始めるまでに1年、2年とかかり、何千万円もの予算が必要でした。中小企業にとってそのような投資は難しく、結果として大企業との間に大きな格差が生まれました。それが今は、クラウドサービスを使えば経費払いが可能で、それこそ月額数百円から利用できるものもあります。うまくいかなければ止めるのも簡単です。

一方、使用感も技術の進歩により、使いやすく、なじみやすいものになっています。私の周囲では、例えば、70代の現場監督がスマートフォンやタブレット端末を使ってクラウドサービスで業務を遂行しています。使ってみれば便利だった、楽になったと思う方はきっと多いはずです。まず大切なのは、積極的な利活用です。デジタルの活用は、中小企業にとっては背負ってきた投資力ハンディキャップを克服するチャンスであり、中小企業こそ大きな恩恵を受けられるでしょう。

DXによる変革で見逃してはいけない本質とは

DXの本質は、過去との訣別であるとしっかりと認識する、そしてデジタルの活用によって、気持ちのいい、快い変化を受け入れていく点に集約できます。

この変革では、中長期的な視野を持ち、今までの勝ちパターンを潔く手放す覚悟も求められます。その過程では、きっと摩擦や軋轢も生じるでしょう。しかし、それを恐れて何もしないのでは移りゆく時代とのギャップがどんどん大きくなり、やがては修復不能の状態になります。そうなる前に速やかに手を打つべきで、抵抗勢力と対話を積み重ねて落としどころを見つける、従来のしがらみが存在しない全く違う領域に進出するなど、不退転の決意で事業運営、企業経営にあたってみてはいかがでしょうか。

また、DXはまさに「デジタルエクスペリエンス」です。とにかくデジタルを使う経験をしてみてください。職場の皆さんと一緒に試してください。使って馴染んでいくと、そこから自らの動機づけで抵抗感が消えて、過去のやり方を進んで変える気運が高まっていくと思います。

次回は、ビジネスや働き方に求められている大きな変革に、私たちがどのように向き合うべきかを、「ハイブリッドワーク」をテーマに紹介します。デジタルをベースとした働き方が広がるなか、デジタル時代のコミュニケーションで誰もが感じる課題や具体的な対策について掘り下げていきます。

ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションのあり方とは →

沢渡あまね
筆者
沢渡 あまね
作家/ワークスタイル&組織開発専門家
公開