「脱ハンコ」発言で急加速する行政手続きのデジタル化

押印する男性

2020年9月16日に菅内閣が新たに発足して以降、行政手続きの改革をめぐる議論が加速しています。それに伴ってペーパーレス化脱ハンコにむけた道筋も、各省庁で盛んに検討が進んでいく状況となりました。

こうした様々な変化が、印鑑や押印の存在意義や、事務作業のデジタル化を進める目的について考え直すきっかけとなった人も多いのではないでしょうか。

今回は最近の閣僚人事の一連の流れをおさらいしながら、脱ハンコをめぐる最近のトレンドを整理し、今後の行政手続きの展望などについて考えてみましょう。

行政手続きの「脱ハンコ」 河野大臣ら主要閣僚の動向は?

霞ヶ関にある国会議事堂

菅新政権が発足 

菅内閣が示す行政手続きの効率化やデジタル化の構想は、大きな青写真が描かれている点が特徴的です。新型コロナウイルス感染症の拡大が社会に大きな影響を与え、行政手続きをはじめとする様々な事務作業のデジタル化は、国民の大きな関心事となりました。

デジタル庁の創設をはじめとして、強いリーダーシップで行政手続きを進めてくれそうという期待感は、菅内閣の今日の高い支持率の一因ともなっているとみられます。

一連の構想では、省庁の垣根を超えて情報共有が盛んになされる仕組みを構築し、全体としては縦割りによる弊害をなくしていくことが謳われています。また、政府CIO(最高情報責任者)に大きな権限が付与されることなどが施策の大きな特徴といえます。

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深夜のリレー会見で 河野行政改革担当相「さっさとやめたらいい」

また閣僚の就任後、河野太郎行革大臣が深夜にわたるリレー会見を厳しく批判したことも、結果的に新政権のカラーを強く印象付けるものとなりました。

「大臣が各省に散ってやればすぐ終わる。前例主義・既得権・権威主義の最たるもの。こんなものさっさとやめたらいい。これを皮切りにいろいろやっていきたい。」と回答したのは、報道陣から行政改革のスピード感について問われた場面でした。このやり取りは、すぐに大きな話題となりました。

同大臣はもともとTwitterを用いた発信に意欲的に取り組んでおり、アクティブに有権者と交流することでも知られます。この会見でも「SNSもしっかりやっていきたい」と補足し、無駄を排除したスピード感のある情報提供の方法として、SNSもその一例となることを示唆しました。

これら一連の発言は、脱ハンコと直接関係するものではありませんが、不必要な慣行に対しては改革を進め、本題である人と人との直接のコミュニケーションをより充実させていこうとする河野行政相の姿勢は、脱ハンコと方向性を同じくするものといえるでしょう。

河野行革担当相が押印廃止・脱FAX・ペーパーレス化にも意欲を示す

さらに9月24日、同大臣は全省庁にむけて原則行政手続きでハンコを使用しないようにすることを要請しました。

内閣府から各省庁に出された通知では、あらゆる行政手続きに対する印鑑の捺印について、①廃止②廃止の方向で検討中③存続の方向で検討中、の三つから回答するよう求めたとされます。そして、もし廃止ではなく存続の方向で検討中であれば、理由の提示も同時に求めるという対応をしました。その結果、年間10,000件以上発生している押印が必要な820種類の手続きの内、各府省が押印の存続を求めたのは35種類(9月末時点)にとどまったとのことです。

加えて、政務に伴う決裁がこれまで原則電子化しないという取り決めになっていた点を批判し、電子化された承認フローがあって当たり前のものだという姿勢を強く打ち出しました。

今後は行政手続きにおいても、印鑑はむしろ原則不要のものとなっていくことが予想されます。

またさらに同月27日、企業や自治体から行政が報告を受け付ける際に、対面でのやりとりや、FAXの送付が求められることがある点も、改善する意向を発表しました。FAXを用いていた手続きをオンラインに移行し、脱ハンコとともにペーパーレス化も進めるということです。

今後、様々な行政手続きがオンラインのみで完結するようにすることが全体の構想といえるでしょう。

Twitterでの「ハンコ文化が好き」という投稿が話題に

新政権発足後短い期間の間にも様々な新しい動きを見せるとともに、多くの話題を集めた同大臣ですが、その後はTwitterで、「行政の手続きにハンコはやめようと言ってるのであって、ハンコ文化は好きです」と語り、「いいね」の数は13.6万を超えています。

(参考:河野太郎行革大臣のTwitter

投稿では、愛読書と思われる文庫本の表紙にハンコを押した写真がアップされ、自身のハンコ文化への愛着をツイート。

強いリーダーシップで行政改革を進めていく河野行革相ですが、既存文化への敬意も示し、Twitter上でも河野氏の考えに賛同する声が目立ちました。

婚姻届や離婚届においても押印廃止を検討

10月9日、上川陽子法務大臣は閣議後の記者会見で、婚姻届や離婚届の押印廃止を検討していることを明らかにしました。現状、婚姻届や離婚届は認印でも可能であり、さらに戸籍関係の届出は2004年4月以降オンラインでも制度上可能であることが背景にあると考えらます。

デジタル化による効率化やスピード感が求められる現代ですが、時代の流れと文化的な側面を踏まえながら変革を行っていくことがポイントなのかもしれません。

脱押印とハンコ文化の保護をめぐる課題

日本の文化でもあるハンコ

では、文化としてのハンコの価値とはどのようなものなのでしょうか。

文化としての側面

もともと印鑑は中国から日本に輸入された文化ですが、現在の中国では、欧米諸国と同じようにビジネスシーンで印鑑が用いられる慣行はありません。つまり、契約での合意形成の手段は印鑑ではなく、本人の直筆サインで行われるスタイルが一般的となっています。

このように、印鑑証明などとともに印鑑を使って正式な合意形成を行う日本のやり方は、国際的にみても非常に珍しいといえます。

こうした事情があるからこそ、多くの日本企業にとって契約実務をグローバルスタンダードに合わせるためには、脱ハンコが重要となるのです。海外企業との取引においては、電子署名電子契約はもはや必須とされる場合も少なくありません。

ハンコにはデザインの美しさと様式美がある 

他方、ハンコが日本の文化であるということは、その形状、朱肉や印影がもつ色彩感、そして捺印するという一連の所作がもつ様式美などにも、すべて文化的な価値があることを意味します。

両者で同じ書類を確認しあい、捺印するという一連の動作によって、約束はたしかな「契約」として締結されます。またそこに捺印が施されることで、記されている内容の重要性が誰の目にもが明らかとなるという一連の様式には美しさも感じられます。

また、印影があることで安心感をもたらすという一面もあるのかもしれません。

反面、書類の提出のためにわざわざ窓口に出向いて長時間並ぶなど、行政手続きには大変な手間がかかるもことも、よく知られるとおりです。

効率性が最大限重視されるべき組織内部での承認手続きや、煩雑な手間をかけることが好ましくない行政宛ての書類申請、さらには合意形成の手段としての意義が形骸化してしまった認印など、必ずしも物理的な印鑑でなくてもよいような慣行には改革も必要でしょう。

行政手続きの改革においても、手続きにかける手間は極力シンプルに、しかし一連のプロセスにおける正確さや綿密さは保持するということが求められているのでしょう。形骸化してしまった手続きは新政権が進んで慣習打破し、今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが加速していくことは間違いがないでしょう。企業における業務改善においても、ビジネスパフォーマンスを加速するため、真のデジタル化が同様に大切なのではないでしょうか。

まとめ

今後政府主導で脱ハンコの動きが益々進んでいき、企業もそれに合わせた対応が求められることが予想されます。

既存の業務のあり方を見直すことは、多くの企業にとって多くの労力や時間を費やし、大きな負担となるでしょう。しかしこれを機に、現在の行政改革のように業務の一連の流れやタスク間の無駄を見直し、効率化された業務フローを新たに確立するチャンスでもあるのではないでしょうか。

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